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3●犯人捜し

奴らを捜し出せ! 刑事ライトはつぶやいた

 とりあえず、ミスター・ライトと俺はダウンタウンの金を盗られた場所へ行くことにした。昨日の記憶をたよりに、どうにか例の広場に到着。ミスター・ライトは広場にいる人たちに聞き込みをしている。金を巻き上げたあの三人組を彼等は皆知らないという。昨日と同じように井戸端で洗濯をしているオバチャンたちも、金をまきあげないと“奴ら”を叱るボスだと言われていた男も、三人を知らないそうだ。その後、金を払うのに両替をしたバーへ行って話しをするも、やはり見ず知らずの三人組だったと言う。
 うーむ、うまいこと騙されちゃったもんだ。
 ここでミスター・ライトは、午後1時半にもう一度会って捜査をしようと言う。のんびりしにジャマイカまで来たのにと思ったが、保険のためのリポートを書いてもらわなくちゃならんこちらの立場としちゃあ断われんでしょ。ph-1-6.GIF

 待ち合わせの場所に約束の午後一時半に着けずに20分ほど遅刻。あせって行くと、ミスター・ライトもまだ到着していない。刑事さんも遅刻するなんざあ、さすがジャマイカと変なところで感心してしまった。
 さて、捜査の開始となった訳だが、待ち合わせをした場所は昨日俺が“奴ら”のうちの一人目に会ったあたりだった。いきなりミスター・ライトは、おとり捜査をするのでおまえ一人でここからダウンタウンへ向かって歩け、もし犯人が出てきても気付かれないように私は50メーターほど後をゆっくり車で付いて行くからと言う。
 ところが彼の車は真っ赤でとても目立つし(たとえ“奴ら”が俺を見つけても様子がおかしいと思って出てこないんじゃないかなあ)、その道がダウンタウンに入ろうとするところでおよそ100メートル四方の大きな広場というか空き地の脇を通るんだが、その空き地の片隅には堀立て小屋が数軒立ちならび、日本でいうところのホームレスっぽい人たちがお住まいになっていて人通りもあまり無いんですよ。そんなこんなでおいおいと思ったが根性入れて歩くことにした。午後の炎天下(&冷や汗、脂汗)で身体中汗でびしょびしょ。ミスター・ライトの車をつき従えながら2,30分ほど歩いたものの犯人たちは姿を現わさずじまいで場所を変えようということになった。
 ミスター・ライトの推理では、今モンテゴベイ港には軍艦が入港しているのでその乗組員かもしれないということだった。確かに午前中の聞き込みでは、このへんでは見慣れない連中らしいことがわかったが、軍人にしちゃあ“奴ら”はちょっとしょぼいルックスだったけどねえ……。しかし彼は自分の推理にかなり自信がありそうだったので、とりあえず港へ向かうことにした。

 軍港のゲート前に到着。軍艦の乗組員目当ての商売をたくらむジャマイカンたちでごったがえしいる。ここでミスター・ライトは例のごとくおとり捜査を俺に命ずる。ゲートの前で一人で立っていろという。
 しばらく一人で立っていると(飢えた狼たちの前にほおりだされた羊のごとし……)例の如く多勢のジャマイカンたちが商売目当てに言い寄ってくる。3人目に白タクの運ちゃんが「タクシーはいらないか?」と言ってくるので、いいかげんウンザリしていた俺は
「向こうへ行ってくれ!」
とちょっと声を荒めて返事をすると(このくらい態度をはっきりさせないとジャマイカンはあきらめんのよ)その男は
「FUCK OFF!」
と言って俺の前を立ち去ろうとした。と、そのときそばにいた別のタクシーの運ちゃん(この方は営業ナンバーのタクシー)がいきなりこの白タクの運ちゃんに喧嘩をふっかけ、俺の前で拳をにぎりながらの睨み合いが始まっちゃった。おいおいどうなっちゃうんだよ、と思っていると、営業ナンバータクシードライバーはいきなり自分の車のトランクを開けて、ナナなんと大きな鋸(よく片目片足の海賊が持っているようなちょっとカーブのついたやつ)を取り出して、白タク運ちゃんに切りつけようと構えた。白タク運ちゃんも負けじと足元にあった拳四つ分くらいの大きな石を拾い上げ、営業ナンバータクシードライバーに石を向け睨んでいる。一瞬のうちに展開する目の前の出来事に口をあんぐりして見ていると、まわりのジャマイカンたちが双方を止めに入ってきた。何人もが入り乱れての大騒ぎが始まる。そして俺に向かってどっちが悪いのか裁定したいが最初におまえはあの男に何て言ったんだ、と一人が大声で聞いてきた。答えあぐねていると、どこに身を隠していたのかミスター・ライトがやってきて仲裁に入る。彼が警察手帳を見せるとようやくあたりは静まった(やれやれ)。彼は営業ナンバータクシードライバーの鋸をとりあげ、俺を車へつれていった。運ちゃん二人は自分の非が無かったことを証明するために喧嘩になった経緯を話せと俺に叫んでいる。が、こんな興奮状態でうまく説明できるような英語をワタシャ喋れません。

 これじゃあ捜査にならんという事でその場をは離れることにした。車中で俺は
ph-1-7.GIF"so much trouble in the world"とボブ・マーリーが歌ったけれど、まんまでびっくりした。」
思わずミスター・ライトに話しかけると彼も頷いていた。
 しかし、約束の盗難リポートも書いてくれずに、俺を使って必死に犯人捜しをする彼もきっと手柄がほしいんでしょうなあ。なんかこいつもジャマイカンやなあ、と感じ入ったのでした。
 結局この日はこれでポリスステーションに戻り捜査終了とあいなった。
 リポートは週開けの月曜日に渡す。明日からウイークエンドで私はオフだが何か手がかりが見つかったら連絡してくれと言って彼の自宅とポリスステーションの電話番号を書いたメモを俺に渡してくれた。
 保険会社用のリポート欲しさにつきあった一日の捜査では“奴ら”は見つからずじまいだった。あーこれでお金も戻ってこないし、リポートをもらえる月曜までモンテゴベイから移動もできないし、まいったなあ。でもこのウイークエンドの二日間でまたいろいろあったのでした。
 ジャメイカ──侮れない処じゃ!

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