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2●金を盗られる

ジャマイカにだっていい奴もいれば悪い奴もいる





 ダウンタウンへ向かって歩く俺の右脇で、その若いジャメイカンは興味を曳こうと小走りしながら色々話しかけてくる。
「こわがるなフレンド。俺はそのへんにいる悪いジャメイカンとは違うゼ。俺の足を見てみろよ、裸足だろ。ビーチに靴をおいてきたのさ。ここモベイはキングストンなんかと違って泥棒がいないからOKなのさ。」
ちょっと胡散臭いが、マッイーカ何事も勉強勉強と話し相手になってやる。
 しばらく二人で歩いていると
「あそこに男が立っているだろう、俺の義理の兄だ。」
と言われ道端に立っている男を紹介される。ちょっと眼のキツイ奴だなあ、と思ったが再びマッイーカとダウンタウンへ三人で歩いて行くことにする。
ph-1-4.GIF「俺たち二人がダウンタウンをガイドしてやるよ。ん、 金? いや要らないよ、おまえは俺たちのフレンドだからな。」
と二人に言われ、ここで再び思案するもまたもや、マッイーカと奴らにガイドをおまかせすることにした。
 ダウンタウンに入りレストランを見てから教会に連れて行かれる。ここでいきなり献金をしたほうが良いという奴らのアドバイス。実はここで俺が現金を持ってるかどうかチェックされてたわけなんだけど、そんなこととは露知らず俺は素直に金を払う用意をした。財布を開けようとすると、奴らいわくジャマイカドルじゃこの教会では受け付けないので、米ドルで払えとのこと。わざわざ懐にしまってあった米1ドル札をほじくりだして献金した。
 その後、じゃあ俺たちの仲間の住んでる場所を案内するよ、と言われ入り組んだ小さな路地を三人で歩いて行った。しばらくして路地からちょっと奥まった小高い小さな広場に連れてかれる。周りは小さな家々に囲まれていて、広場の中心には手動ポンプのある井戸の流し場があり女たちが洗濯をしている。
広場の一番奥にある丸椅子に座らせられ、そこで二人は ガンジャを取りだし一服どうだ、と俺に一本勧める。
 俺がフーッと煙を吐き出すと義兄だという眼光スルドイ奴が
「このガンジャとダウンタウンのツアーガイドの代金として米300ドル支払え!」
といきなりスゴンできた。それにしても随分と吹っかけてきたもんだ。
 広場を囲むスペイン風の小さな家の壁が夕陽に赤く照らされているのが眼に入った。
「話しが違うじゃないか、俺には払う金なんか無い。」
「さっき教会で金を出してたじゃないか。」
 しかし実際全財産で米250ドルしか所持してなかった。それもこの一週間分の旅費である。
「おまえ、メキシコのペソを知ってるか? 今あそこじゃインフレで殆ど価値が無いのと同然の通貨だ。ジャマイカドルもペソと同じさ。俺たちの仲間は皆貧しい。金を持ってるおまえがちょっと払えば奴らは救われる。あそこに座っている男がここのボスだ。俺たちが金をとれないとボスに怒られちまうんだよ。」
 確かに指差した先の丸太に中年の男が座っている。
 そこにもう一人、ちょっと頭は良くなさそうだが臥体のいいTシャツの若い男が加わり、三人で俺を取り囲む。ううむ逃げようにも逃げられん。話しには聞いていたが、まさか自分がこんな目にあうとは!
 三人の背後に見えるジャマイカの空は真っ青だった。

 結局三十分以上も払え払わないの押し問答をしているうちに奴らもシビレを切らしてきて、じゃあいい米100ドルでいいということになる。金は下着の中にしまってあるので、どこかモノかげで取り出したいと言うと、じゃあこの広場を出たところにバーがあるからということで、そこまで連れてこられる。店の片隅で下着の中にしまってある金を取り出す。さっき空港で両替したばかりのジャマイカ500ドルと米60ドルを取り出す。これじゃあ払いすぎだもんだからジャマイカ500ドルを、バーでビールを奴ら3人のためにおごり両替する。結局米60ドルとジャマイカ270ドル(=約米40ドル)を奴らに支払いここで開放された(ヤレヤレ)。

 ご丁寧にも奴らは、小走りにホテルへ向かう俺の背中に向かって
「また面白い所へ連れて行ってやるぜ!」
と、おごってやったビール片手にホザキやがんの。(周りのジャメイカンに脅して金を盗ったように見られない為にやった事らしいが……。)しかし、こいつらに金を脅し盗られた、と周りの誰かに触れ廻れる根性と余裕はそのときの俺には残念ながら無かった。

 ホテルに戻った俺は部屋の中で一人暗くなってしまった。ph-1-5.GIF
 ジャメイカンは誰がいい奴で誰が悪い奴なのか? あと一週間、米150ドルでどうやってヤリクリしようか? 眠れない夜を明かした俺は翌朝、ホテルのオーナーのアドバイスに従って近くのポリスステーションへ行って、被害だけでも報告することにした。うまく警察でリポートを起こしてくれれば、盗難保険も降りるだろうという話だ。

 朝のポリスステーションで警官に事の成り行きを説明していると、27,8才とおぼしき背広姿でスポーツ刈りの長身の男が入ってきた。
「刑事のライトだ、よろしく。」
 挨拶もそこそこに、それじゃあ、今から犯人を捜しに行こうと言って、ポリスステーションの前に停めてあった彼の赤い日本車(多分サニー)の助手席に俺を押し込んだ。



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