ポエトリー・リーディング03


HIP HOP系を中心にした
POETRY DISK GUIDE

わたくしの黒人音楽愛好約20年の中で聴いてきたpoetry 関連の
ディスクを紹介していきたいと思います。
興味を持たれたディスクがありましたら
是非聴いてみてください。
どれもほんとかっこいいです。
そして皆さんのポエトリー・リーディングの
理解の助けになればと思います。


 まず何といってもこの二組のアーティストは外せません。'60年代より活躍しているベテランで、ラッパーたちにもリスペクトされてる人たちです。公民権運動等で熱かった時代の熱いポエトリー・リーディングです。映画“SLAM”出演の詩人たちも彼らの存在無しには考えられません。


gil_scott_jacket.GIFGIL SCOTT-HELON
"FREE WILL" LP

 先日、“SLAM”主演のソウル・ウィリアムスが渋谷のハーレムでリーディングしたとき、オープンマイクでポエった外国人詩人の何人かはモロにこの人──GIL SCOTT-HELON(ギル・スコット・ヘロン)・スタイルで読んでました。彼のポエトリー“revolution will not be televised”は有名。コンガを中心にしたシンプルなジャズをバックに早いテンポで叫んでいます。ジャケットの面構えもかっこいい! 彼はアルバムの中でポエトリーとメロディのあるものの両方をやってます。メロディのある歌の中では“BOTTLE”という曲が'、80年代後半にロンドンのクラブDJたちに好んで取り上げられ有名になりました。写真はFlying Dutchman レーベルから1972年に出た"Free Will"というアルバムです。A面がメロディのある曲、B面がポエトリーという構成になっています。

lastpoets_jacket.GIFTHE LAST POETS
"THE PRIME TIME OF THE LAST POETS BEST OF VOLUME 1" LP

 次に紹介するのがLAST POETS(ラスト・ポエッツ)。2人組の詩人グループです。ギルよりもアフリカっぽい音やイメージを使っています。リーダーであるUMAR BIN HASSAN(ウマー・ビン・ハッサン)はビル・ラズウェル(ジョン・ライドンの“album”のプロデューサー)と組んで、現在も良質のアルバムを出し続けていて、'92年には来日してます。プロデューサーのビル・ラズウェルはポエトリーにも興味があるみたいで、自分がリーダーであるマテリアルというグループのアルバムに晩年のウイリアムス・バロウズの朗読をフューチャーしてます。写真はフランス編集のベスト盤"The Prime Time Rhyme Of "です。1970〜1977年までの作品が入ってます。1973〜88年までのvolume 2も出ています。

lastpoets_jacket_2.GIFTHE LAST POETS
"HOLLY TERROR" CD

 '93年リリース。UMAR BIN HASSAN(ウマー・ビン・ハッサン)とABIODUN OYEWOLE (アビオドゥン・オイエウォレ)のLAST POETSの二人を中心に、BILL LASWELLのプロデュースでBOOTSY、BERNIE WARRELLらのMATERIALのバックによるアルバム。ベテランラッパーのGRANDMASTER MELLE MELも参加。元気出せえっ!! っていう音と言葉です。


 以下ジャンル関係なく思いつくままにレコードを紹介していきます。
 あるアメリカ人が言ってましたが、黒人文化には言葉を声で表現する文化が連綿としてあり、代表的なものとしては教会の説教がありラップもその流れだそうです。(黒人の)ポエトリー・リーディングは内容こそ個人的な詩の世界ですがその表現スタイルは牧師の説教と変らないかもしれません。確かにマーティン・ルーサー・キングやマルコムXの演説はポエトリー・リーディングとして聴いても充分な力を持ってます。

こちら
にいくと下記メジャー系HIP HOPアーティストのライムがかなり正確にのってます。要翻訳ですがかっちり聞き取り済。

melvin_jacket.GIFmelvin van peebles
"ghetto gothic" CD

 黒人映画監督の草分け。このひとがいなけりゃスパイク・リ−もいなかっただろう、という方。60年代から俳優、監督を開始。自らバックトラックを作曲、それに自分のしゃべりを入れるラップのはしりみたいなことを当時からやってて、LAST POETSもギル・スコット・ヘロンも彼のスタイルを取り入れたらしい(ネルソン・ジョージによるライナーによる)。特にトム・ウェイツが声、間のとりかた等このひとの影響大。時と場合によるとクリソツです。
 このアルバムは95年の制作。ダンディなスケベじじいの囁き or 口説き、嘆きが笑えていい。ゲンズブールのアメリカ版か。おれの晩年こういうのを目指すか。スケベでもダンディだとかえって笑えるので許せちゃうのね。

welden_jacket.GIFWELDEN & THE POETS, SPOKEN MELODIES
"EMBRACE THE POSITIVE" LP

 ジャズ・ピアニストのWeldon Irvineが詩人と組んで作った1998年制作のオムニバス・アルバム〜Welden & The Poetsの"Embarace The Positive"です。ソウル・ウィリアムスも1曲参加。他にJessica MooreやmuMs the shemer、Rich Medina、Shalom supream等が参加しています。バックトラックもかなり凝った作りになっていて普通のヴォーカル入りの曲も入っておりポエトリー・リーディングのアルバムとしてはとても聴きやすいです。個人的にはmuMsが気に入りました。イントロで、コモドアーズの"easy"の歌詞をまんま使ったアイデアも面白いです。写真は日本のP-VINEレーベルから出たアナログ盤のジャケです。

common_jacet.GIFCOMMON
"ONE DAY IT'LL ALL MAKE SENSE" LP

 このアルバムを紹介したいがゆえにこのページを立ち上げましたっつうくらいのわたし個人の大推薦盤。'97リリース。hip hopのアルバムとしても'90年代を代表する名盤。
 他のhip hopに比べゆったりしたトラックに載せて、ポエトリー寄りのテンポとリズムでライムしてます。前半最後のトラック"my city"(タイトル通り出身地シカゴについての詩)は完全なポエトリー・リーディング。lauryn hillやde la soul,q-tip,erykah baduらとのカラミも気持よい。ネーション・オブ・イスラムのルイス・ファラカーンの演説(家族について)からの抜すいもある。そのままlaulyn hillとのトラックに入る。丁度laulynにもcommon(のリーダー)にも子供が産まれた時期で「家族」「子供」が曲のテーマに。
 最後のトラック"pop's rap part2/fatherhood"において、このアルバムで多くの詩を共作しているlonnie "pops" lynnによるアドリブまじりのポエトリー・リーディングもかっちょいい。「リスペクトとラブとともに正しい事や真実を私たちに伝える責任がキミたちにはある。」といってアルバムが締め括られます。

sylk_130_jacket.gifSYLK130
"WHEN THE FUNK HITS THE FAN " LP

 下記キング・ブリットの1997年作。77年のフィラデルフィアのアフロアメリカンの若者達を描いた映画のサントラというコンセプト。実際に映画があるわけではないけど、SEやドラマがところどころにはさまっている。ロングヘア時代のURSULA RUCKERのポエトリー・リーディングが随所に。他に男性詩人も一人(名前不明)。キング・ブリット本人も言ってましたがプロモーションの失敗があって売れ行きイマイチだったらしいが、内容は凄くいいです。この後リリースされたSYLK130名義の2枚のアルバムでは必ずURSULA RUCKERが参加してます。でもリーディングが一番多く入ってるのはこのアルバム。

king_britt_jacket.gifKING BRITT
"ADVENTURES IN LOW-FI" CD

フィラデルフィア出身のDJ&サウンドクリエイターであるキング・ブリットの2003年作。主にラップトップパソコンで音作りをしたので、こんなタイトルになってるらしい。基本コンセプトは「Hip-Hopアルバムを作る」ということらしいが、アルバムのアタマとラストにRich Medinaのポエトリー・リーディングが入ってます。リーディングを音作りの要素に早くから着目してる彼ですがここでも。音は、彼独特の気持ちいい音追求系で、メインストリームのHip-Hopとはひと味違う。

ursula_jacket-01.gifURSULA RUCKER
"SUPER SISTA" CD

 フィラデルフィア出身の詩人。上記SYLK130やTHE ROOTS 4HERO、JAZZANOVAらと共演、アルバム参加してきた彼女のファーストフルアルバム。2001年リリース。これまで共演してきたアーティストたちが音を作り、その上に彼女のリーディングが乗る。その筋ではトップのサウンドクリエイターたちによるものなのでバックトラックはどれも逸品。詩人のアルバムとしては完成度ピカイチ。歌やラップ無しにアルバム1枚を飽きずに聴かせてしまうところは流石です。言葉の合間にところどころ入る彼女の軽い歌つうかメロディがまた気持ちいいっす。

umar_bin.GIFUMAR BIN HASSAN
"BE BOP OR BE DEAD" LP

 
前述のLAST POETSのリーダーの1993年リリース盤。プロデューサーはBill Laswell。ハードコア系のうるさい音からjimmy smithばりのジャジーなインストまでいろんなバックトラック上を縦横無尽にポエまくります。バックの音とリーディングの絡み方のアイディアの宝庫。ただ日本語を乗せる場合、まんまパクってもかっこよくならないかと思いますが。プロデューサーのbill氏には行く行くは日本のポエトリー・リーディングもプロデュースしていただきたいです。ジャケ写はアナログ盤のモノクロのものですがCDはちゃんとカラーのジャケットでリリースされてます。

hashisheen_jacket.gifTHE END OF THE LAW
"HASHISHEEN" CD


 上記UMAR BIN HASSANのアルバムをプロデュースしてるBILL LASWELLが中心になって作られたアルバム。1998年リリース。BILL LASWELLがらみの人脈(JAH WOOBLEやGENESISI P. ORRIDGE他)の音にIGGY POPや生前のバロウズ、イギリスで80年代初頭ジョン・フォックスらとアルバムを作った"NEW WAVE"詩人ANNE CLARK、はては反著作権、半政府主義思想活動家で「 T.A.Z.一時的自律ゾーン 存在論的アナーキズム、詩的テロリズム」の著者であるHAKIM BEYまでが朗読に参加。中身はと言えば11〜13世紀ペルシャのエルブルズ山脈奥深くにあった「アラムート(鷲の意)の砦」と呼ばれたイスラム教異端派であるイスマイリ派ニザリ教団がらみの詩や語録等。「アラムートの砦」には「秘密の花園」と呼ばれる天国のような場所が築かれていたらしい。砦の主であるハッサン・サバーがそこに住むことを許したのは、屈強な若者のみで、町で見つけられた彼らはハシーシュ(大麻樹脂)を飲まされ昏睡させられ砦に連れて来られ、目が覚めると若者は自分が聖典コーランに描かれた通りの楽園の中にいるのを発見する。美しい花園と宮殿で、酒とともに夢のような官能で美女につくされ快楽を満喫する。若者が快楽に溺れ切った頃合いを見計らって、彼はまたハシーシュで酔わされ外に連れ出され、厳しい現実の世界でみじめな自分の姿を思い知らされ、失われた楽園に恋焦がれる。しばらくして若者の前に再び団長が現れて「あの楽園にもう一度戻りたいなら」と暗殺を持ちかける。若者は楽園への道として殺人に命を賭ける。こうしてハッサン・サバーに狙われるたターゲットは誰であれ暗殺を免れることはできなかった。マルコ・ポーロの『東方見聞録』にも取り上げられた、この「アラムートの砦」は、『裸のランチ』の「インターゾーン」のイメージのヒントの一つになった場所らしい。1254年に蒙古軍に落城させられるまでの約150年続いたそうで、英語のアサシン(暗殺者)の語源は「ハシーシュ」から来てるそうな。英語がもっとわかればライナーにある、その他いろんなことが判明してもっと詳しく書けますがすいません。アルバムそのものはバロウズと、彼の数少ない理解者であり、カットアップ技法を彼に伝授したという画家で音楽家であったブライオン・ガイシンの二人に捧げられてます。

jayne_cortez_jacket.GIFJAYNE CORTEZ & THE FIRESPITTERS
"TAKING THE BLUES BACK HOME" CD

 NY在住のアフロ・アメリカン女性詩人 JAYNE CORTEZがTHE FIRESPITTERSというバンドをバックにリーディングをしてます。ジャズの老舗レーベルVERVEがリリースしてるのでジャズと思いきや、こてこてエレクトリックブルーズがバックトラック。アフリカ人によるグリオ風バックトラックが2曲と、ジャズ・トランペッター/ディジー・ガレスビーに捧げた1曲のみジャズ、しかしこのトラックが一番かっこよかったです。輸入盤ですが歌詞付き。

murray_jacket.GIFDAVID MURRAY
"FO DEUK REVUE" CD

  フリージャズ系のサックス奏者DAVID MURRAY (デビッド・マーレイ)の'97年のアルバム。彼のバンドを中心にラッパー、西アフリカのグリオミュージシャン、そして詩人(AMIRI BARAKA 他)が参加。各々がバラバラになることなく力強いポシティブな音に。グリオの言葉、ラップ、リーディングの、おのおのの声とリズムの気持良さ。いわゆるフリージャズからするとずっと聴きやすい音ですが、コマーシャリズムに流されることなく誠実に音楽を作っていった結果の素晴しい作品。聴いてるとなんだか元気が出てきます。
 バンドのベーシストであるJAMAALADEEN TACUMAは自身の何枚かのアルバムでも詩人をフューチャーしてます。

you_the_rock_jacket.GIFYOU THE ROCK★
"ROCKY★ROAD(友情BBS)" 12"

 
日本人ラッパーYOU THE ROCK★の2000年発売の"12シングルのB面。A面(C-E-Z 2000(GET BUSY Y'ALL!))はわりとフツーのマイアミスタイルのラップであんま面白くないのですが、B面がゆったりしたバックトラックにそのリズムをちょっとはずしたラップがまさにポエトリー・リーディング・スタイル。無理して韻踏んでないとこも気持良い。“フィリーズでひとまき、ひとっとび”のフレーズ笑えました。

LKJ_jacket.GIFLINTON KWESI JOHNSON
"BASE CULTURE" LP

 イギリス在住のジャマイカ系黒人LKJ(リントン・クエシ・ジョンスン)のダブ・ポエットのアルバムです。ダブ・ポエットというのはレゲエ、それもダブというベースの音を強調した重た〜い音をバックにしたかなり政治色の強いメッセージを込めたスタイルです。プロデュサー、エンジニアのデニス・ボーヴェルが作るダブ・トラックをバックにジャマイカ訛りの英語で淡々とメッセージしていますが、その独特のリズム感がたまらんです。1980年に出たアルバムで、当時はパンクやニュ−・ウェーブの流れの中にレゲエがありました。このアルバムもジャケットのデザインからそんな当時が垣間見えます。1曲のみjazz poetry スタイルでリーディングしてますが他は全てダブ・ポエット・スタイルです。レゲエのアルバムとしても傑作。

oregon_sympho_jacket.GIFOREGON SYMPHONY
JAMES DEPRIEST, CONDUCTOR
"NEW MORNING FOR THE WORLD"
"THE PASSION OF MARTIN LUTHER KING" CD

 
ジャンル的にはクラシックに入ります。Joseph Shwantner による1982年作のオーケストラ曲に黒人オペラ歌手Raymond Bazemoreの朗読が乗ります。キング牧師の演説をもとにしたテキストをオペラ歌手の豊かな声と、ダイナミックな間(ま)とテンポでドラマチックに展開していきます。クラシックのバックトラックでもリーディングはいけるという好例。特に"NEW MORNING FOR〜"が秀逸。

til_the_bars_jacket.GIFV.A.
"TILL THE BARS BREAK" CD

 
Pat AndradeとDon Paulというインディ・レーベルの主宰者二人が中心になって1991年に作られたネイティブ・アメリカンと黒人による政治色の強いオムニバス盤〜"TILL THE BARS BREAK"。ネイティブ・アメリカンの詩人──Jeannette Armstrongのリーディングを中心に同じネイティブ・アメリカンのRebecca Bellmoreや何人かの詩人のリーディング、パブリック・エナミーのラッパーであるChuck Dのラップ、ブリティッシュ・レゲエのエンジニア/Mad Professorのダブ、いくつかのグループの演奏、更にチェ・ゲバラのインタビューまで入った盛り沢山の内容。
 個人的にはBenjamin Zephaniahというイギリスのダブ・ポエットの"She's crying for many"というリーディングがお薦めです。普段この人はレゲエのバックトラックに合わせてテンポと軽いメロディを付けてるのですが、ここではバックトラックを一切付けずに、少年時代に同居してた姉とそのボーイフレンドの家庭内暴力を淡々と描写してます。肉声のみですがこちらにググッと 迫ってきます。こういうリーディングが理想ですな。

eragasms_jacket.GIFV.A.
"ERAGASMS CRUCIALPOETICS VOL.1" 12"

 "ERAGASMS"というアルバムからの選曲。saul wiliamsほかの詩人と、company flowほかポエトリー寄りのhip hopアーティストたちによるオムニバス。どちらかというとhip hop寄りに作られていて、saul wiliamsもヒューマンビートボックスやったり"fuck!"と叫んだりしてて知らない人にはただのラッパーと間違えられるかも。

slam_jacket.GIFV.A.
"SLAM THE SOUNDTRACK" CD

 '98年リリース。2000年1月に日本でも上映された"Slam"のサントラ。売れることを狙ったのかアルバムの8割方がメジャーなhip hopアーティストの曲。しかし主人公の講師兼恋人役だったJerome Goldmanの"why"、主役のsaul wiliamsによる"sha-clack-clack"の2篇のポエトリー・リーディング(共にバックトラック無し)と、ラッパーKRS-1とsaulの共作共演による"ocean within"が強力。特に"ocean〜"がバックトラック付きにもかかわらず言葉の響きやリズムがポエトリーリーディングならではの美しさ。上記の"ERAGASMS"のトラックより全然良いです。


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